SABOTEN
 
 
 
 
 
 
 
2007年11月15日発売になった松本里美の初銅版画集&初ソロアルバム
『Bronze & Willow』のレヴューを

http://www.satomin.jp/info/bronzewillow/browillow0711.html

北里義之 2008/4/9のmixi日記レヴュー
松本里美『Bronze & Willow』
 古風な学者めいた老紳士,西部劇に出てきそうな着飾った淑女たち,ベッドに座らせたふたりの子供の前で仁王立ちになる職業婦人,一本の柳が立つ川辺で読書しながら釣りをする青年,実直そうなドアボーイ,いかつい身なりの運転手,黒猫にカラス,立ちあがる狼,画面いっぱいに乱舞する鳩の群──ヨーロッパのどことははっきり言えないけれど,子供の頃にどこかで観て,記憶の端々に引っかかったままになっている古い外国映画の印象的な一場面を,そのまま集めて一冊のアルバムにしたような銅版画集に,14曲のオリジナル・ソングをつけた豪華作品が,“サボテン” のボーカリスト松本里美初のソロ・アルバム『Bronze & Willow』である。架空のホテルを舞台にした銅版画シリーズ「柳ホテル」が切り取った風景は,画中の登場人物がいまにも動き出し,過去に何百回となく語られてきた物語を,また最初から聴き手に語り始めそうな情緒的雰囲気をたたえている。世界を写真のフレームで一挙に切り取るのではなく,シンプルな線によって簡素化しながら銅版画に描きとっていく道すがら,異国の風物に感応する淡い松本の感情が,水彩絵具のタッチで編みこまれていく。

 飾らずにすむことを飾らないままでいることは,やさしくない。飾らないものを飾ることは,さらにむずかしい。ほとんどどうしていいのか分からない。たぶん歌が導いてくれるのを待つしかないのだろう。

 「無機質」と呼んでもいいような鉱物質の,銅板を傷つける針のように明確なラインを刻むギターと声で歌われた松本里美の弾き語り「Weeping Willow」で幕を開ける『Bronz & Willow』は,いたってシンプルなアルバム構成を持っている。ナスノミツル(b)と植村昌弘(ds)によるタイトなロックのリズムが線画の趣きを添える「Lovely Gravy」「車とかばん」「モリー・ゴングの一生」の三曲の後,近藤達郎アレンジのインスト曲「In the Mousse」(本盤の作曲はすべて松本自身)がインターミッションとして置かれ,そこから向島ゆり子(vln)や秋岡欧(cavaquinho)が伴奏した「朝の月 No. 5」,関島岳郎が多重録音で作りあげた「化石を見たかい?」,そして彼らが全員参加した「Wonder in Winter」というアコースティック・アレンジが三曲続いた後,再度インターミッションに近藤達郎アレンジのインスト曲「Tango with Bear」が登場して,書物の中扉のような役割を果たす。この曲以降には,人選の妙を聴かせる冒険的な楽曲が並んでいる。牧野琢磨(g)がゲスト参加したワイル風ブリコラージュ・ソング「Eel Pie Island Song」,今井和雄(g)が歌の中間部でフリー・インプロヴィゼーションのソロを取った「ヒバリ」,大阪出身の純国産和製ジプシー楽隊(というふれこみだが,演奏はロマ音楽というより,むしろいなたい篠田昌已コンポステラを思わせる)“フレイレフ・ジャンボリー” がバックを務める「アントニオの卵」「Wedding Tune」,そして近藤達郎がリズムボックス風のプログラミングをした「まぶしいチョコレート」で大団円を迎える。

 松本里美の歌とギター演奏は,そこにどんなサウンドや演奏をつけ加えても,びくともしない。何一つ変わらない。それはたぶん,彼女の歌と演奏が,歌手や歌詞の内面を心理描写するようなものではなく,あえて言うなら,歌詞が描き出す出来事を坦々と叙述する叙事的文体,もしくはルポルタージュの文体を持っているからではないだろうか。文体そのものが持つ色のような感覚こそ漂ってはいるものの,もともと感情や心理をなぞることのない声だからこそ,身体的な衝動や喜怒哀楽の感情を巻きこむことで,聴き手の心をなんとか動かそうとする演奏に,まったく影響されることがないのである。表現にとって必要最低限のラインだけで描かれた松本里美の歌は,その意味において,まさに彼女の描く銅版画のように私たちの耳に刻まれていく作品群と言えるだろう。




●北里さん、どうもありがとうございました。これからもこんな風にやっていっていいのね?と自信が持てました。(by 松本里美)
 

MUSUC MAGAZINE  インディ盤紹介/行川和彦 2008/1

銅版画家でもある元サボテンの(訂正:今もやってます!)の松本里美(Vo.g)が『bronze 6 Willow』(ジパングZIP0027)を出した。初ソロCDと画集がセットの作品だ。
CDの方は、アルバム・タイトルのトラッド・ナンバーと
(訂正:英語の詩の部分以外はわたしの曲ですよ)、突然段ボールの蔦木栄一作詞(訂正:作詞ではなくて、タイトルとお、印象的な言葉をいくつかお借りしたのよ)の「まぶしいチョコレート」以外の12曲は、すべて松本のペンによるものである。プロデューサーの一人の近藤達郎(org)の他、ナスノミツル(b)、植村昌弘(ds)、向島ゆり子(vin)、関島岳郎(チューバ他)、など多数が参加し、アコースティックな質感のシャープな音を演奏。東欧の民謡風の旋律も交えながら、レッド・クレイオラを思い出すクセの強い曲が綴られていくが、しっとりと落ち着いた淡い”ポップス”に仕上がっている。
凛とした佇まいのヴォーカルは、クールに見えて愛らしく、力強い。
本の方は63 ページのオール・カラーでB6変型値判ハードカバー仕様だ。


●行川さん、どうもありがとうございました。こちらで訂正3カ所させていただきました。サボテンもよろしくね!(by 松本里美)

 
CDジャーナル 松山晋也のインディーズ・ファイル/よろしく哀愁 2007/11
『サボテンのように美しい松本里美』

松本里美という名前は記憶になく、同封されていた紙資料にも一切目を通さずすぐにCDを聴き始めたのだが、どういうわけか一瞬にして80年代前半のライヴ・ハウスの風景や匂いを思い出してしまった。
マイナーとか屋根裏とか。あと高円寺や吉祥寺や高田馬場の古本屋と中古レコード屋も。つまり、貧乏だけどいつもハイエナのように未知のレコードや本や映画を求めて街をさまよっていたあの時代(って今もほとんど同じか)にとてもよく馴染む歌とサウンドなのだ。これは。親しい俺の仲間の歌・・・。

とここで、紙資料に目をやれば、この人サボテンの中心人物じゃないですか。どうりで身内のような気分になったわけだ。といっても面識があるわけじゃなく、80年代前半、レコードやライヴで愛聴していただけなのだが。たしか、突然段ボールの妹分的スタンスで活動していたはず。あと、ロル・コックスヒルと共演したり、サティのカヴァーをやったりと、ああ、何もかもが俺のツボ。
そんなサボテンのリーダーの、これは初ソロ作だが、ただのCDじゃなく、本人の手がけた銅版画の画集(計82点)もセットになった豪華CDブック(63ページ)仕様。そして”松本里美の銅版画と音楽ーその輻輳する物語”なる副題とおり、14の楽曲と一部版画は補完しあっている。
本人のギターと歌をサポートするのは、近藤達郎やナスノミツルほか、そのスジの方々。
朴訥とした口調なのだがえらく毅然としており、妥協したようなスキがまったくない。それでいてユーモラスで時にキュートでもある。そのあたりはサボテンと同じなのだが、このソロでの表現はサボテンに輪をかけて繊細であり、また余分なものを一切感じさせない。だから、美しい。版画も同様。
何を目指して生きてきたのか、何を求めて生きていくのか、この人のヴィジョンはじつに明確なのだと思う。

 

 

●松山さん、どうもありがとうございました。くすぐったいくらい幸せです。(by 松本里美)

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